2014年8月22日金曜日

"Elle était si belle, vraiment, comme si c'était une fée!"

従姉の娘のMちゃんが、大きなお腹を抱えて訪ねてくれた。
来月7日が予定日だ。

Mちゃんは私が高校2年生の時に生まれた。翌年にはその妹、Yちゃんも生まれた。すでに高校生活に飽き飽きしていた私は宝石のような赤子の誕生に宝くじにでも当たったかのように有頂天になり、週末を待ちかねて従姉の家を訪ね、ひとしきり赤ん坊の相手をして遊んだ。従姉はとても美人で、ダンナも昭和な色男で(笑)、当然のことながら娘たちは二人とも器量よしだ。遊びに行くたび愛らしさが増し、目の中に入れても痛くないとはこのことだぞ、とこれじゃあまるで初孫を見守るジイジ・バアバの心境だけど、ほんとうに、その成長に立ち会える幸せを存分に味わった。

そのMちゃんが、お母さんになる。なんだか感無量だ。

先に結婚したのはYちゃんだった。年下のダーリンはYちゃんにメロメロで(笑)献身の限りを尽くしているらしい(笑)。「ほんま、ええ婿殿やけど、ちょっと痛々しいな……と思う時、あるわ。ははは」と笑うのは従姉のダンナ。そんなYちゃん夫婦にはまだ子どもがなく、バリバリ働いていてまったく結婚のケの字もなさそうだったMちゃんが突如結婚すると言ったと思ったら妊娠も判明。Yちゃん夫婦による初孫のプレゼントを心待ちにしていた従姉夫婦はさぞかし仰天しただろうな、どんな顔してMちゃんから話を聞いたのだろう、と私は半ば面白がりながら、事の顛末を聞いた。
Mちゃんが30代半ばにさしかかり、妊娠・出産のリスクが高まることが従姉にとってはいちばんの気がかりだったという。「あんまり口うるそう言いとうなかったけど、子どもは早よ産んだほうがええねん、好きな人がいたら仕事は二の次にして結婚しい、って何回言うたかわからんわ。ほな突然両方来た。もう、かなんわ」と諦め顔で話す従姉。Mちゃんの伴侶となるのはひとまわり年上の働き盛りの40代。「お互いに前から知り合ってたけど、そういう仲になったんはつい最近で、つきあい始めてすぐ結婚する気になったんやて」(従姉)
ふうん。人の縁ってわからないものだねえ。


この従姉は私のことを小さい頃から可愛がってくれ、まだひとりでは行けないところによく連れていってくれた。ゴジラ対モスラ、とかではない恋愛ものの洋画を初めて観にいったのは従姉とだった。ネックレスとか、ハンドバッグとか、ちょっと大人な店には従姉に連れていってもらった。私の母は、自分の兄嫁にあたるこの従姉の母親にたいへんよくしてもらっていたので、当然この従姉のことも可愛がり、また従姉が私を可愛がってくれるのでとても喜んでいた。いつも従姉にお金を預けて私に似合うものを選んでやってと、すこし小遣いも渡して、とても頼りにしていた。私にとっても母にとっても「大好きなお姉さん」だった従姉は、なんと22歳で嫁にいってしまった。披露宴に出た母が帰宅するなり、「この世の中にあんな可愛らしい花嫁さんやはるやろか。ほんまにきれいやった。可愛らしかった。T君(=昭和的美男子のダンナ)も凛々しいてタキシードよう似合うて、男前やったわ、お人形さんみたいな新郎新婦やったわ、ホンマにきれいなもん見せてもろたわ」と絶賛の嵐だったのを思い出す。
私以上に母もMちゃんYちゃん姉妹を可愛がった。年頃になった二人をいつも心配していた。Yちゃんの結婚には大喜びしたし、今度のMちゃんの慶事にも顔をほころばせた。早くもおめでただと聞いても動じることなく「そら、なによりやんか、よかったよかった」。だって自分の娘はいわゆる未婚の母だもんね、デキ婚がどないしたん、てなもんですわ(笑)。

弟の反応が面白かった。弟も、私に負けず劣らず、玉のようなM姫を舐めるように可愛がったクチである。
「Mちゃん結婚決まったんやて」
「ほお。そら、よかった。エエ歳やったしなあ、うん」
「ほんで、すでにおめでたやって」
「なにっ」
「9月に生まれんねんて」
「……たくもう」
「お相手やけどな」
「おう」
「ひとまわり年上やて」
「……ぬぁにっっっ……」
「バツイチやて」
「(無言)」
「でも前の奥さんとの間には子どもなかってんて」
「(無言)」
「まあいろいろあるけど、きまってよかったやんなあ」
「……許さん」
「へ?」
「許さんぞ、そいつ。どこのおっさんやねん。ワシと三つほどしか違わへんやんけ」
「アンタこの際関係ないやん(笑)」
「なんつうこっちゃねん。ほかの誰がどんな男の嫁になってもええけどな、なんでよりによってMがそんな目に遭わなあかんねん」
「アンタ親父か」
「ああもう、まったくもう」
「恋愛結婚やしな、いちおう。人身売買ちゃうし」
「許さんっ」

というわけで、親族一同から玉のように愛でられたMちゃんは、晴れてもうすぐ母になるのだ。男の子だとわかっているらしいが、きっと、Mちゃんの父に似て昭和的美男子なクラシックイケメンが誕生するのだ。楽しみだなあ。

「赤ちゃん見せにきてや、ってMちゃんにいうといてな。あんたもたいへんやけど、また一緒にウチ来てな」
Mちゃんが訪ねてくれた日はデイサービスの日だったので、会い損ねた母は従姉に電話をして大事にしいや、大事にしいて言うてや、と繰り返していた。
子どもが生まれるって、本当に素敵なことだ。
素晴しいことだ。
全身全霊で、祝いたい。